第九章
これでようやく、スッキリした。
ああそうか。今まで感じていた違和感はこれだったんだ。掠める度、まあいいかと逸れていたのは彼が真実に触れさせない為。こうなると分かっていたから。
時が止まったかのような錯覚。虚無感。頭の中が、真っ白になる。
覚えがある。
クレシスが刺された時もこんな感覚を味わった。
これは、絶望だ。
「なんで気付かないかなー。だってさ、おかしいとは思わなかったの?」
クレイジーは腰に手を当てて左足に重心を掛けた姿勢に移る。
「日本語。英語。それって何処の国の言葉なのさ」
誰も何も応えなかった。
「……クレイジー」
少しの間を置いてマスターが口を開く。
「行くぞ」
クレイジーはじろりと見回した後で小さく溜め息。
「……そうだね。もうこれ以上こいつら構っててもつまんないし」
靴音が響く。はっと顔を上げたラディスが声を上げた。
「何処に行くんだ」
クレイジーはピタッと立ち止まり、振り返る。
「……決まってんじゃん」
口元、にやりと歪めて、
「僕たちの理想の世界を作るんだよ」