第九章



呆気にとられた様子で動かない研究員の女を置いて、俺は駆け出した。

あの女の発言から、クレイジーは。

「マスター!?」

他の研究員に追われながらある大扉の研究室の前を過ぎた頃。その扉の脇でまるで見張りのように置かれていた研究員の一人が声を上げた。

速度を緩め、立ち止まって振り向くのと同時に追手の男に肩を掴まれる。

「ちっ、やっと捕まえ……」
「……触るな」

幾つもの鉄格子が床を破り、研究員の周りに突き出て鳥籠のように天辺で結合して閉じ込める。動揺を隠せない追手を放って、先程声を上げた研究員の男の元へ。

「……クレイジーは」

ガシャン、と鉄格子を握って見つめる。

「あ……」
「言っておくが黙っていても得はしないぞ」

左手を上方向に向けて翳し、切っ先から柄まで真っ白なナイフを生成して鉄格子に押し付けると。研究員の男は飛び退き、後ろの鉄格子に背中をぶつけた。

「……他のヤツに聞くだけだ」
「おお俺はここで見張っていろと命令されただけだ! だ、だから」
「……何も知らないから見逃してくれ」

影を差して目線を上げる。

「城ヶ崎」

追手の男が視界の端で名前を呼ぶ。

「……今朝、実験対象の子供が中に連れ込まれた」

研究員の男は諦めたのか、目を瞑りぐったりとして答えた。

「非常に高難易度だが成功すれば大きな進歩となる」


――繭化実験。


「……お前たちは……兄である俺の断りもなく、俺の……」

ぎり、と奥歯を噛み締める。

「弟を……!」
 
 
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