第九章
重い塊がぐらりと傾いて、落ちる。
――殺された。確かに博士には僕たちと違って何の特別な能力も備わっていなかったけど、それでもあんなこうもあっさり死んでしまうなんて。
「くだらん思考だな」
吐き捨てた男の傍らで、博士の体からは流れ出る血が止まらない。
「お、おい」
「お前も俺に楯突くのか?」
あれは確か拳銃という名前で元々はこの国で扱われていなかったものだ。
「……そう怯えるなよ」
あんなものを常備していたなんて。知ろうとしなかった以上気付くはずもなかったが、だとすれば危険人物だ。逆らえば最後、博士たちみたいに殺されてしまう。
トロべ。ブルベ。……痛かったよね。
「どうせ誰も気付きやしないさ」
僕が今から。
「ここには研究に溺れた狂科学者(マッドサイエンティスト)しかいないからな」
仇をとってあげるから――
「あの双子はどうするんだよ」
両の瞳が赤く輝きを迸らせたその時だった。
「……ああ」
男はふっと笑う。
「マスターとクレイジー、だったか」