第九章
「ゲームが欲しいっ!」
最初に乗り出したのは弟だった。
「色んなキャラクターがたくさん出てきて、」
「格闘ゲームか?」
弟はう、と何故か言葉を詰まらせる。
「……二人じゃなくて。例えば四人くらいの人数で対戦できるゲーム、とか」
女の子とか可愛いキャラクターがいた方がいいんだけど、と説明する弟の声は徐々に小さく聞こえづらいものとなっていく。俺と博士は顔を見合わせた。
「そうだな。検討しておこう」
分かりやすい奴。揃って小さく笑みをこぼす。
「お前も遠慮することはない。言ってみなさい」
年の割には弟と打って変わって落ち着いているとよく囁かれる。何も通さない障壁を張って人をなかなかに受け入れない。面倒見がいいように見えて弟の暴走を目の前でただ眺めるだけといった静かで残忍な一面を内に秘めた恐ろしい子供だと。
実際、能力値に関しては他と比べてずば抜けていた。
物覚えがいいのか理解もそう遅くはない。特に創造力については、対象をいくらか眺めただけでそっくりそのまま再現することだって出来た。
説明を受ければ、もはや目にする必要もない。
そんな子供だからだろう。幼い頃から何もかも熟せる自分に、人の手というものは尚更不要だったのだ。要らなかった。愛する弟さえ傍にいてくれたら。
けれどそんな自分にも欲しいものが出来てしまったのだ。
「……名前」
博士は首を傾げる。
「俺と、弟の……名前が、欲しい」