第九章
「クリスマス?」
俺も思わず声を揃えそうになった。
「って知ってるよ。何とかって神様の降誕を祝うお祭りでしょ」
弟はつまらなそうに言う。
「街には男女のペアが互いの手を繋ぎ、愛を囁き、聖夜に想いを馳せる」
博士はカルテを手にボールペンを走らせながら聞いていた。
「くだらない。ここの国の連中も。自身の国の文化には感心が向かない癖に恋愛が絡むとすぐそうやって食いつくんだから」
言って、電子音が鳴ったので弟は体温計を博士に差し出す。
「子供なんだから。もっと浅く文化を受け入れないか」
受け取って確認後もカルテにペンを走らせ、
「神様だ恋人だじゃなくて」
博士はぽつりと発言する。
「例えば、サンタクロースとか」
室内は静寂の海に呑まれた。
はてさてこれはどうしたものやら。サンタクロースといえば赤外套を着た白ひげの老人で、クリスマス前夜にプレゼントを持って子供たちを訪れることで有名だが、そんなものは架空の存在でその辺りの役目は親であると相場が決まっている。
いやともかく。そんなことを聞いてくるということは。
「何か欲しいものは無いのか」
――見え透いているな。どいつもこいつも。
ふと、トロべの発言が脳裏を過る。遠慮していたわけでもないが、相手がわざわざ促すのであればそれらしく甘えてやろうじゃないか。