第九章



「……は?」

ちなみにここでいう“ニニ君”とはいわゆるあだ名で、それまでそれらしいまともな名前を持っていなかった俺を呼ぶために姉妹が付けた一時的なものだった。

「な、なに言ってるのよ。別にそんなんじゃないってば」

そんなつもりがなくてもあまり触れない話題だ。動揺するのも分かる。

「そういうブルベだってどうなのよ。あなたはいつも弟君と一緒じゃない」
「僕は関係ないだろ! 今は兄さんとの関係を聞いてるんだっ」

……珍しいこともあったものだ。

いつもなら僕の兄さんにちょっかいを出すなとか、胸がきゅっと締まるような熱くなるようなそんな愛おしい発言で翻弄させてくれるというのに。

「なによ。別に、ただの暇潰し相手ぐらいにしか思ってないわよ!」
「……トロべちゃん」
「本当だってば!」
「私っ! ニニ君のことが好きだよ!」


しん、とその場が静まり返った。


「優しいし、かっこいいし、おとぎ話に出てくる王子様みたいで」
「ちょっブルベ?」
「これが恋かどうかは分からないけど」

そう言って彼女が不安げに視線を向けた先は――俺だった。

「変、かなぁ」

いやに視線が突き刺さる。

「あんた男ならはっきりしなさいよ。ブルベが言うんだから」

そう言うトロべは動揺を隠しきれていない。

やれやれ。こういうタイプが一番扱いづらいから困る。……
 
 
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