第九章
「九年よ!?」
トロべは腰に手を添えてぐいと顔を接近させる。
「ずうっとイイコちゃん演じてたわけ?」
――そうか。さっきの記憶から一年が経過しているのか。
「イイコも何も、俺は俺と弟の望みを叶える為に手を貸してやっているだけ」
「それが信じられないって言ってるのよ!」
やれやれ。相変わらず耳に障る声だ。
「あたし達は“子供”なの。こんな特異な能力さえなければ平々凡々なお子様よ」
得意げに話す時。胸に手を置く仕草は一年経った今でも健在だった。
「いくら研究者といえど相手は大人よ? だったら媚びなくちゃ」
「……するとどうなるんだ」
「これだから効率厨は」
わけの分からない返しをされてしまった。
「子供に懐かれて嫌な思いをする大人なんて」
「割合としてはどのくらいだ。空回りするのでは困る」
「頭の硬い人ね。ほんっと可愛くないんだから」
融通がきかないのはお前の方だろうに。
「あーっ!」
弟とブルベが帰ってきた。
強大なあまり能力のコントロールが上手く利かないこの二人は定期的に精密検査を受けることが多い。俺とトロべはそんな片割れの帰りを待っていたのである。
「僕に無断で兄さんと話しないでよ!」
「なによ。暇なんだからしょうがないじゃない」
こうして弟が突っかかるのもいつものこと。
「と、トロべちゃん……」
ただいつもと少し違ったのは。
「ブルベまで、なに」
「トロべちゃんはニニ君のことが好きなのっ!?」
……いわゆる恋愛要素というやつだった。