第九章
「叶うはずがなかった。普通の子供のように遊びたい、そんな弟の些細な願いは」
その少年はゆっくりと顔を上げる。
「生まれたその日から化け物だったんだ。それはそれは途方もない望みだった」
どうして、こんな記憶を。
訊こうと口を開いて、やめた。少年の姿であるマスターは決して此方を見つめているわけではない。恐らくこの状況を想定し、録音して残されたものだろう。
「……神様になればそんな望みさえ容易く叶えられる」
不意にマスターの姿が視界から蝋燭の火を吹いたように消滅する。
俺の望みはただひとつ。
愛する弟と、永久の時を過ごすこと。
そうして世界はフラッシュバックを起こして真っ白な光に包み込まれた。
ぐいぐいと体を引っ張られるような感覚を覚えながら、ラディスは再び腕で庇い、瞼をぎゅっと瞑ってそれがおさまるのを待つ。
「しんっじらんない!」
声。トロべの声が聞こえる。
「子供の形(なり)しておねだりもしたことないの?」
次に瞼を開いた時、視界に飛び込んできたのはトロべの不貞腐れた顔だった。
声にもならず、ただ反射的に飛び退く。すると透けたのか、ふっと青い髪が視界に続けて飛び込んできた。気のせいか少しだけ双方の背が伸びているような。