第九章



無属性? そのままの意味だろうが、本当に?

「終わりましたね」

研究員の声に釣られて、ぎりぎりまでパソコンに視線を残しながら振り返る。

「……何度目にしても慣れないな」

硝子の向こう側。

「毎度毎度、データの収集が追いつきませんよ」

ラディスははっと開き、目を奪われる。


「あの速さの前では」


――鳥籠。トロべとブルベの二人を大きく囲うようにして銀色の光沢を放つそれが捕らえている。その上で、格子の隙間からは見えない空間から生成された、おどろおどろしくも真っ赤に染め上げた槍の矛先が幾つも、幾つも。

突いて貫いていたわけではない。鳥籠の中心に背中合わせになって寄り添った少女二人の小さな体へ。一歩でも動けば命は無いとでも忠告するように。

「ふ、ふえ」

ブルベは今にも泣き出しそうに怯え震えている。

一方で圧倒的な力量を見せつけた少年二人は握っていた手を解放した。瞳に宿っていた朧な光は失せて元に戻る。その光景にラディスは息を呑んだ。

こんなことって。まるで、まるで。


「化け物みたいだろう」


ラディスが振り返ると辺りの風景は一変して暗黒の闇が広がった。

声の主である少年は顔を俯かせて顔に影を差している。無音の世界の中、ぽつりと佇む少年にそんな些細なことで恐怖を感じて、だけどラディスは目を見張った。
 
 
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