第九章
当然、自分の姿が相手に見えるはずもないので堂々と横から覗いてみる。
――子供たちの固有能力には分析によって属性で示されているらしく、戦っている少女二人の属性は『風』らしい。
ちらり、硝子の向こう側へ目を向けると戦いは既に始まっていて、確かにあの双子の少女の内の一人、トロべが拳を突き出したり蹴りを繰り出したりする度、銀色の風の刃が小さな衝撃波となり動きに沿って放たれている。
ブルベはサポート役だろうか。属性が『風』ならこうして一枚隔てて見るだけでは分からないことも……もしかしたら、風を操っているのかもしれない。
「――安定しているな」
研究員が何やら話している。
「此方のデータに関しては両者共に長く維持しているようです」
「この調子ならどちらかのペアが繭化実験の被験者となる日も近いな」
……繭?
「簡単なことではないですよ。それが成功するとも限らないんですから」
何を言ってるんだ?
「だろうな。このプロジェクトを立ち上げた研究者も去年の暮れには亡くなった」
「珍しくしんみりとしてますね。何かあったんですか?」
「いいからデータを取れ。仕事中はプライベートに触れるな」
ラディスは疑問を感じながらもパソコンの画面に視線を戻す。
そこにはちょうど、マスターとクレイジーの能力が映し出されていた。A-002、003……間違いない。食い入るように見つめる。
「……無属性」
ラディスは思わず口に出して言った。