第一章
「本当に、ありがとうございました」
啜り泣く子供を抱えて深々と頭を下げる母親に、青年とラディスは顔を見合わせる。
「何とお礼を申し上げたらいいか……」
「や、俺は別に」
青年はたまたま近くを通りかかっただけだ。判断は君に任せるよ、とばかりに青年はラディスに視線を向ける。
「うーん……とにかく、次からは」
「しまった、時間!」
すると青年、何か重要なことを思い出したのか唐突に声を上げた。一歩踏み出し、ああそうだと振り返れば先程拾ったラディスのジャケットを差し出して。
「ん、」
「落としてたから! 君のだろ?」
じゃっ、と青年は片手を軽く挙げて、慌ただしく駆け出した。全く、何を急いでいるのだと背中を見送っている途中で、
「……あ」
自分も、本来の目的を思い出す。