第九章
その刹那。ぶわっと強い風が正面から吹いて、ラディスは身を守るように腕を構え瞼を固く瞑った。世界は、眩いばかりの白い光に包まれて。充満して。
――溢れる。
「っ……」
やがて光が弱まり落ち着きを見せると、ラディスは恐る恐る構えを解いて瞼をそっと開いた。視界に飛び込んできた景色はまだ眩しくて一瞬眩んだ、だけど。
緑の草地に水色の空。小鳥の囀り。
転がっていくボールを追いかけてはしゃぐ子供の声。
「……なんだこれ」
目を奪われて。暫くして口からこぼれたのは、そんな素直な感想だった。
「何が、どうなって……」
双子の少年が仲良く駆け回って遊んでいる。その内の青い髪の方の少年はどうもマスターのようなのだ。となると、赤い髪の方の少年は弟の……?
「A-002、003!」
その声にラディスが振り返ると、
「っ、え」
白衣を羽織った男が――ラディスを突き抜けて前に出てきたのだ。
「採血の時間だ」
……痛みは感じなかった。
「戻りなさい」
じゃあ、透けたとか?