第八章
「……あれか」
混乱に乗じて銀行員が――裏口へ向かっている。
本来ならすぐにでも警報器に手を伸ばす。ところが窓口の女性は誰も裏口へ向かう銀行員のことを気にして、タイミングを図っているようだった。
「っ、」
裏口の扉に指を触れたところで背後より肩を掴まれ、留まる。
男性が振り返るとそこにはフォックスがいた。
「どうしたんだ?」
徒に。口元に、笑み。
「お客様の安全確保が最優先、だろ?」
男性の頬をたらりと冷や汗が伝い――次の瞬間である。
にやりと口角を吊り上げたかと思えば、懐から拳銃を取り出しそれをフォックスに向け、発砲したのである。ゆっくりと流れる時間の中で銃弾は運良く頬を掠めたが――止まらない。その先では老女が硬直している。
回避不能。飛び込んだり押し退けるなどそんな余地は全く無かった。
だが。
フォックスが左目を流し、銃弾を捉えた次の瞬間。
瞳はほんの一瞬だが赤く瞬き、それが銃弾を粉々に砕いたのだ。
「……!」
老女の額に届き、貫く……その直前だった。