第八章



驚愕。戦慄。悪寒。

対するマスターはそんな空気など気にも留めず、そうなれば差し向けたそれを慌てて引っ込めるような様子もなく。

ぽかんとしていたフォックスも我に返れば。

「子供扱いすんなっ!」

と、これまた期待を裏切らない当然の反応で。

マスターも何を考えているのか。暫くはきょとんとした顔で硬直していたが、不意にくすっと小さく笑みをこぼすと茶碗の上に箸を置いて。

「……はいはい」

反射的に立ち上がって羞恥に顔を赤く染めるフォックスを見つめる。

「遠慮することないのに」

昔っからそう。意地悪なのは悪い癖。……昔? あれ?

そうだ。思い出した。


「腕……」


フォックスはぽつりと口を開く。

「……ああ、これか」

提肘固定三角巾――腕の骨折又は骨折の疑いがある場合に多く用いる方法。彼の左腕は全布でそうして固定されていた。大きな怪我でもしたのだろうか。

「別に、大したことじゃない」
「屋根に不具合がないか確認しに上がろうとしたところを落っこちたんだと」

……あれ?

「それにしても、体の左側ばかり不幸ですね」
「不便に磨きがかかっているな」

違う。だって彼の。

「そんなことはないさ」

彼の左腕は、
 
 
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