第六章
散々、といえばそうだったのかもしれない。或いは良心に付け込まれたか。
――PV撮影はともかくとして。
どうして歌だの踊りだのと徹底しなければならなかったのか……何処ぞの芸能人じゃあるまいし、とは思いつつもその時は後のことなど深く考えず自暴自棄というよりは寧ろ乗り気になっていた。まあ此方の正体は明かさないつもりらしいし。
それから何日か経ってラディス達はようやく、レイアーゼの屋敷に帰ってきた。
朝。空気も読まずに喧しく鳴り響く目覚まし時計を、百人一首が如く平手で叩きつけることで逸早く黙らせることに成功したラディスはぱちっと目を覚ました。その傍らにはゲムヲが寄り添うようにして静かに寝息を立てて眠っている。
――彼の私物といえばあの携帯用ゲーム機器しか見当たらず、突然連れて帰った彼を空き部屋があるからと何もないそこに放り込む気にはなれなかったのだ。それになんだかんだよく懐いている。暫くは同室だろう。
「ほら、起きて」
帰ってきたのが夜中だったので挨拶がまだだ。入隊の話だって、自分一人で勝手に話を進めるわけにはいかない。まずはマスターに会わせなくては。
「起きれる?」
ラディスがぽんぽんと優しく叩いて声をかけると、ゲムヲは重い瞼を開いて眠たそうに此方を見つめた後でこくりと頷いた。こうして彼の動きを眺めていると自分の息子のルーティを思い出す。今頃どうしてるだろうな。
――ああ、そうだ。自分の部屋には当然彼のサイズに合うような服がない。それと風呂にも入れてやらないとな。着替えはユウから借りるとしよう。