第六章
「サインくださいっ!」
ラディスはぎゅっと瞑っていた瞼をぱっと開いて、きょとん。
「……へ?」
「うちの娘がDX部隊のファンなんです! 特に貴方の!」
「お、俺ですか?」
ドクドクロが差し出したのはメモ帳とボールペンだった。
「はいっ、リーダーらしくない阿呆っぽさがツボみたいで!」
「てめえバカ狡いぞ!……うちの息子もあんたのファンなんだ!」
「オレの娘は坊主のファンなんだよ。よかったらこの紙に書いてくれるか?」
「俺なんかでよろしければ」
おいそこナチュラルに対応すんな。
突然の変貌っぷりに慌てふためくラディスに対し、サインを求められたリンクはそれをにこやかに快く引き受けて。まるで事態を察していたかのように――
……って、ちょっと待てよこのパターン。
「カァァァット!」
無駄に大きく喧しく鳴り響いて、木霊する。
リンクを除いたラディス達四人はぱっと声のした方を見遣った。瓦礫の影から出てきてはメガホンを手に叫ぶ、真っ白い無精ヒゲと帽子にサングラスが印象的な小太りなこの男性。初日から振り回されていただけに忘れるはずはなかった。
「監督!?」
いや、彼だけじゃない。気付けば至る所にカメラマンも構えていたのだ。
照明係に台本役、その他見知ったスタッフがごろごろと。ラディス達は未だ状況を掴めない。――そう。ただ一人、意地の悪い少年を除いては。
「まだ気付きませんか?」
リンクはドクドクロにサイン用紙を返して。
「これは俺たちヒーローを注視点に置いたPV撮影ですよ」