第六章
数メートル走った先。カービィが伸ばした手はようやくラディスを捕まえた。
「っ離、」
振り解こうとして。ぱん、と乾いた音と共に頬に痛みが走る。
「――いい加減にしなよ」
ラディスは赤くなった頬に恐る恐る触れた。
「そうやって感情に振り回されて、一人で突っ走って」
鋭い眼孔に捉われる。だけどすぐには目を逸らせなくて。
「なんでそこまで必死になれるの?」
カービィは続けた。
「今までだってそうだった、けど違うでしょ。あんたが何を知っているにしてもそいつが得体の知れない化け物の類だってことは変わらない。どうして助けるの?」
苛ついていたのかもしれない。
「都合の良いようなことばかり考えて、それが本当にイコールになるの?」
彼の、途方もない優しさに。
「……例え、嘘でも。本当に化け物だったとしても」
ラディスは静かに口を開いた。
「それなら俺は馬鹿でも構わない」
変わらない声で。
「だからまた、助けるよ」
――変わらない意志で。