第六章



「黒魔法だと? 面白い、僕たちが相手になろう」
「なります、ですよ!」

それぞれの役に成り切って前に出るマルスとリンク。

二人が剣を払い、駆け出すとクロガネはすかさず手を翳した。放たれる、黒を帯びた炎の柱。もちろんこれは白魔法で放った光に黒い照明を当てただけの演出なので実際のところ全くの無害である。が、二人はそれに当たると腕で自らを庇いつつ暫く踏みとどまった後、後方に勢いよく吹き飛ばされてしまい。

「ブルー! グリーン!」

言わずもがなこれは単なる演技である。

「なかなか強いじゃない。惚れちゃいそう」
「こ、こうなったら“あれ”を使うしか勝ち目はないよ! レッド!」

にやりと笑ってステッキを向けるクロガネ。

「どうした。途端に腰が抜けたか?」

挑発。演技とは分かっていてもぶっ飛ばしたくなる。ラディスはぐぬぬ、と拳を握っていたがふと、客席を見遣って。

子供たちが拳を振り上げて声援を送っている。いつかはルーティもあの中に混ざって楽しそうに笑う日が来るのだろうか。思わず顔が綻んだその時、客席の一番後ろの方で席にも座らず、ただじっと此方を見つめる少女の姿を見つけた。

それが何となく、どうにも不自然だったのだ。黒髪は腰辺りまで長く垂らし、前髪は目を完全に覆い隠している。しかし他の子供とは違って口元から察するに無表情だし、辺りには保護者らしき大人も見当たらない。

……まさかな。自分もいよいよ人ならざるものが見えるようになってしまったのでは、と不安になる。突然、あの少女が怪しく口元を歪めたらどうしよう。

「レッド。私たちが時間を稼ぐから、今の内に“あれ”の準備を」
「ああ、任せたぞ」

カービィがしゃくって合図、ラディスは共に前に出る。それでも、先程の少女がどうしても気になってもう一度客席を見遣った。
 
 
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