第五章



「なあマルス」

廊下を歩いていたその時、ロイはふと口を開いた。

「俺、ずっと考えてたんだけどよ」

マルスは黙って耳を傾ける。

「あいつが、最後までお前に疑うことを教えてやれなかったのは、自分が疑われてしまうことを恐れていたからじゃねーのかな」


長く尾を引いてその名を叫んだ。

地上より赤く照らされた黒い空を劈く。何度も、何度も斬りつけた後に胸を貫き、剣を引き抜いた。勢いよく噴き出した鮮血のその先で、男は初めて。

泣きそうな顔をした――


「……さあ。今となってはそう都合よく考えたくもないよ」
「はは、そうか」

ロイは曖昧な笑みを浮かべる。

「だって」

マルスは立ち止まった。

「……そんなの、ずるいじゃないか」



尊敬、優秀、知恵の泉。

だけどもうひとつ、ムラサキツユクサには淋しい思い出という花言葉があって。


今も昔も。悲しいくらい君に似ていた。


「ロイ」

マルスは振り返る。

「――友として誓おう。共に罪を背負い、償う。決して孤独にはさせないと」

迷いのない強かなその瞳に、ロイは暫し呆気にとられた。が、笑って。

「苦労するぜ?」

真偽が積み重ねた終わりの見えない大罪。それでも。

「上等」


共に戦おう。

――この胸に宿る、真剣が折れるまで。
 
 
 
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