第五章



「……馬鹿だな」

ロイはマルスの傍らに屈み込んで。

「友達なんだ。当たり前だろ」

目を細めてにっと笑った。

「マルス」


はっと目を開いて。それからは涙が止まらなかった。

まるで、子供みたいに。雨音にも負けないくらい、大きな声で――


「よかったじゃない」

ようやく起き上がったカービィの背中は泥まみれだった。

仰向けに寝転んでいたのだから当然か。服もしっかり泥水を吸ってしまって、汚れが完全に落ちるには時間と手間がかかるのだろう。

「青春だよねぇ。斯く言う僕にも大切な人ってのはいたんだけど」

マルスは怪訝そうに。のっそりと起き上がる。

「……けど?」
「うん。死んじゃったんだよねー」

はたしてそれはへらへらと笑いながらする話だっただろうか。

「人の運命なんて分かりゃしない。いつ、何処で死んじゃうかなんて」

ロイは立ち上がる。

「だからさ。あんたはその手、離しちゃ駄目だよ」


雨はいつの間にか上がっていた。

吹き抜ける風に悪意を感じる。何しろ寒くてたまらないのだ。

「そろそろ戻ろうぜ」

風邪を拗らせては大変だ。ロイは手を差し出す。

マルスはおもむろに手を伸ばした。が、その手を掴むと強く引いて。

「んなっ、」
「もう少しだけっ!」

――本日三度目。泥と水が派手に跳ね上がった。
 
 
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