第五章
「……だから、さ」
カービィは自分の瞼の上に腕を乗せて、紡ぐ。
「あいつを取り上げないでよ」
それは静かに、寂しく耳を通って。じんわり、胸を熱くさせた。
心の何処かで壊してはいけないと自分を律していた。彼が積み上げてきた努力を、その結果を。全てを。――僕にはただ、羨ましかったんだ。
想われてるんだね、君は。
ふと頭上に影が差して。視線を上げると、そこにはロイが立っていた。
「……ロイ」
ただ、かける言葉も見つからず、立ち尽くす。
マルスは小さく口を開いた。
「嘘だよ」
――それが何よりも真実だった。
「本当はずっと、君に叱ってほしかったんだ。……殴られたって。それくらい、君には全てを許していた。声も、匂いも。何もかもが当たり前で」
マルスは額の上に手の甲を乗せる。
「……大切で」
体は雨に打たれてとっくに冷えきっていた。
なのに、熱い感情が込み上げてくる。その想いも、頬を伝うそれも。
「離れないでよ」
――嘘偽りではないのだと。
「今度は……嘘でも、いいから」
途切れ途切れに。最後か細く紡がれたそれは。
「僕と……」
きっともう二度と、聞けないのだろう。