第五章
「今やっ!」
「へ、」
カービィと雪合戦ならぬ泥だんご合戦をしていたところ、死角から飛びかかってきたドンキーにマルスは反応が遅れた。正面から腰に飛びつき、上手く踏ん張れないまま勢いに乗せられて視界は反転。バシャンと泥や水が派手に跳ね上がる。
「わっ、あかん。やってもうた」
まさか押し倒すとは。ドンキーは心配そうに表情を窺う。
「……やったな!」
「ぅあっ!?」
しかし肝心のマルスはどうってことなかったのか、ニィ、と笑って脇腹に手を回すとこちょこちょと擽り始めた。これにはドンキーもたまらず、
「ひゃははははは!」
と、雨空劈く大笑い。
「あーあ。せっかく綺麗な御髪だったのに」
釣られて笑っていたマルスだったが、頭上から声が聞こえてくればようやくドンキーを解放した。ふと顔を上げて目が合った途端、にこり。変身を解き、いつものパーカーを着込んで屈み込み見つめていたのはやはりカービィだった。
マルスの心情は穏やかだった。だがしかし、その表情からは静かに笑みが消えてふいと顔を背ける。暫くそうしていると、今度は頭上で泥や水が跳ね上がった。
「……ね、とんでもない奴でしょ」
カービィはくすっと笑う。
「僕なんかより発想も何もずっと子供でさ。馬鹿で、自分に正直で。お人好しで、かっこつけで……ま、たまには本当にかっこいい時もあるけど」
マルスは、ただ黙っていた。
「あんだけ捻くれてた自分に居場所をくれた。俺の胸でよければ、なんてちゃらけたこと言っちゃってさ。ほんと、馬鹿に馬鹿を重ねた……」
ふと、口を閉じる。子供たちのはしゃぐ声が遠くに聞こえて。