第五章
ラディスがふんと鼻を鳴らして振り返ったそのタイミングで、早足で詰め寄ってきたロイが胸ぐらに掴みかかった。
「お前っ、何してんだよ!」
あんな状況で、こんな天候で。二人を揃って外に放り出すなんて。
「もしもマルスに何かあったら」
「君の言う、彼の為とは」
ラディスは少しの抵抗も見せずに言い放つ。
「本当に自分の為になっているのかい」
ロイは小さく目を開いた。胸ぐらを掴んでいた手が、緩む。
「大丈夫でしゅよ!」
と、やって来たリムが後ろからロイの腰をぽんと叩いて押した。
「ラディスは、誰の為にもならないような意味のないことはしないんでしゅから!」
ロイは胸ぐらから手を離してじっと彼女を見つめた。それでも、初日の光景と重なって不安が募る。視線を落としかけたその時、リムは「あっ」と声を上げた。
「そういえば、王子しゃまっていくつでしゅか?」
「え?……俺と同じ、十四だけど」
「それならまだまだ子供でしゅ!」
おい。
「それはそれは」
「せやったら安心したわ」
「何がだよ……」
呆れ顔のロイにリムは元気よく腕を振り上げて人差し指を立てる。
「雨の日に子供がすることといえばひとつ!」