第五章
それから二年の歳月を経て――遂に悲劇は幕を開ける。
「……何だよ、これ」
――赤々と燃え盛る炎が。街を、人を、アリティアという王国を。
まるで別の生き物のように牙を立てて食らいつき、呑み込んで。
「ロイ!」
飛び交う悲鳴が、助けを乞う声が、黒煙の昇っていく紺碧の空に劈く……
その光景に暫し目を奪われて、背後から斬りかかろうと剣を振り上げた敵軍の兵士に、ロイが名を呼ばれることでようやく気付いて振り返るには少し遅かった。
しかし、刹那目の前で噴き上がる鮮血にロイはゆっくりと目を開いて。背中から斬られてその場にがくんと膝を付き、倒れた兵士の後ろには剣を構えた己の父親。
「と、うさ」
「お前は城に向かいなさい」
振るわれた剣から、付着した鮮血が地面に跳ねる。
「早く!」
緊急でアリティアの騎士団が出陣したこのタイミングで、……グラの騎士団が攻めてくるなんて。――あいつが情報を漏らしたんだ。
どうしよう。
俺が。俺があいつを許したから――!
「マルス!」
一室の扉を蹴り破る。ロイはその先の光景に目を開いた。
「おや。そんなに慌てて」
男はゆっくりと視線を向ける。
「どうかしましたか?……ロイ」