第五章
ふぅん、とカービィは目を細める。
「俺の家に仕えていた。それだけじゃない」
目を開き、驚きを隠せないでいたのはマルスの方だった。
「俺も、親父も。……知ってたんだよ」
カービィはただじっと見下ろして。
「そいつがグラの騎士団に属し、その上で国王から命令を受け情報漏洩していたことも……全部。知ってて、言わなかった。見逃してたんだよ」
ロイは辛そうに表情を歪める。
「俺だって、大好きな人だったから……!」
――小さい頃からいつも一緒だった。
体が弱かったマルスは城の庭までしか外出を許されなかったけど、それでも日が暮れて親たちに叱られるまでずっと遊んでいた。そうして十二の歳を迎えた時、あいつが来たんだ。柔らかな笑顔が似合う、フェレ家に仕える新しい家臣の男……
「これは、ムラサキツユクサ。花言葉は『知識の泉』」
淡く彩られた記憶が蘇る。
「……じゃあ、この花は兄ちゃんだね」
少年は肩を竦めて笑う。
「おや。何故です?」
「だっていつも、たくさんのことを教えてくれるから」
男は一瞬目を丸くしたが、すぐに微笑んだ。
「……では、そこに咲いている花の名前をご存知ですか? あれは――」
「まあここにいらしたのね。王子。そろそろ外出のお時間ですよ」