第五章
カービィはふっと笑って剣の構えを解く。
「いいよ。話さないでいてあげる」
――何処かで雷の落ちる音がした。雨足はどんどん強くなる。明かりが点いていないだけあって、朝だというのに部屋の中は暗かった。
「……察しの通り」
ロイはぽつりと口を開く。
「俺は今まであいつに、あいつの大嫌いな嘘をついてきた」
――嘘?
ロイの中で。マルスの中で。心臓が忙しく胸を叩いていた。
それでも決して顔は上げないまま、しかしおもむろに語りだすのだ。――真実を。その背を預けた壁の向こう側に、最愛の友がいるとも知らずに。
「……半年前。アリティア国が敵軍に打ち滅ぼされた事件を知ってるか」
「もちろん。知らない人間はいないんじゃないかな」
カービィは剣を鞘に納めて。
「同盟国グラの裏切り。東方の島に亡命したマルスが後々、僅かな騎士団を率いて首謀者国王のジオルを討ったとまでは聞いたんだけど」
「はは、そこまでお見通しか」
ロイはくしゃっと己の髪を掴んだ。
「分かんないのはさ。その国王が玉座から動かずして、どうやってアリティアの動きを読んでいたかってことなんだよね。ま、可能性があるとすれば」
「情報漏洩した連中の存在」
カービィはすっと目を向けて。
「心当たりがお有りで」
「当たり前だろ」
静かに、ロイはぐっと拳を握り締める。
「……家臣だったんだ」