第五章
「……あいつに、言うのか」
「別に。ただ情報が断片的だから真実が知りたいだけ」
――この声は。
マルスは自分のすぐ後ろにある壁を横目で見遣った。あの時カービィがロイを連れ込んだ部屋は、マルスのいる部屋のちょうど隣だったのである。
さて、これは一体どういうことだろう。目の前の男、クレシスは未だ動きを見せないまま、それでいてじっと此方を見つめている。その目が、決して口を開くなと告げているのだ。眉を寄せたが、この場はおとなしく口を閉ざして待機。
「言ってろ。お前らには関係ない」
そう吐き捨てて、ロイはカービィのすぐ横を抜けようとした。が、刹那。
「っ、てめ」
カービィに手首を掴まれたかと思うとぐいと引かれ、そのまま勢いよく壁に放られたのだ。背中を壁にぶつけてそのまま床に座り込んだが、睨むよりも先に目の前に突き付けられた切っ先に思わず言葉を呑む。
……奴は、いつの間にかロイの能力をコピーし、その髪型や服装、愛用している剣までも本物そっくりに扮していた。ロイは思わず顔を顰める。
「いいのかなぁ? そんなこと言っちゃって」
かくんと首を傾けて、にやり。
「僕たちはDX部隊だよ? 断片的でも得た情報を上の連中に突き出せば、あんたは王子様の傍にはいられなくなる……っは、必死だって? それはお互い様」
喉元から顎にかけて。カービィは剣先を伝わせていき。
「大切な人を傷付けたくない。でもね、その為に自分が犠牲になるなんてのは御法度。それじゃあいつか、何もかもが壊れてしまう。なら、拠り所を捜さなきゃ」
そう言って最後、くいと顎を持ち上げて微笑。
「僕が助けてあげる。――だから、ね。話してよ。本当のこと」
まるで悪魔の囁きだった。
マルスは先程よりよく聞こえる声に耳を澄ませていた。
気付かぬ内に二人は、壁一枚を挟んで背中合わせになっていたのだ。
「……分かった」
「そう」
「ひとつだけ。……約束してくれないか」
ロイは視線を落としながら言葉を紡ぐ。
「あいつ……マルスにだけは、絶対に言わないって――」