第五章
マルスは着替えを終えると、ふと窓の外を見遣った。
「……雨、か」
昨日までは散々晴れていたのに、なんてマルスは息をついた。雨の日というのは特にそういうことがなくとも何となく気が滅入る。しとしとと落ちる雨粒、どんよりと曇った灰色の空。何だか、これから起こる出来事を予兆しているみたいだ……
なんて、そんなはずはないのだろうが。マルスは窓にそっと手で触れて、昨日の出来事を思い出していた。――絶対的な絆と信頼。あの男にはそれがある。
僕には覆せない。それでも、迷いなんか。
……やるしかないんだ。それがどんなに正しくない、単なる悪行だったとしても。
不意に扉をノックする音が聞こえて、マルスは振り返った。
……誰だろう。参ったな、どんな客人にせよ茶菓子くらいは用意しておくんだった。マルスは窓から離れると扉の前に立ち、ドアノブを捻って押し開いた。
次の瞬間である。
「ッ!」
今まさに招き入れようとした男が蹴りを繰り出してきた。咄嗟に手のひらで受けて後方に飛び退いたが、すぐに詰め寄られ回し蹴り。身を反らして躱し、回り込みを仕掛けたが。刹那、顎の下に腕を入れられ、そのまま壁に押し付けられたのだ。
「か……っ」
「おとなしくしてりゃ悪いようにはしねえよ」
マルスは目の前の男をきっと睨みつけて。
「いいこにしてな」
「くっ……」
クレシス――!