第五章
「アリティア国王子であるこのマルスが! こうして忠告しているというのに!」
マルスは自分の胸に平手を宛てて踏み出す。
「それなのに……」
――僕は、ただ。
「どうして分からないんだ! 君たちだって、今まで知らずにいたわけじゃないだろう! 過去にその傷を与えたのは! 信じてきたそれを裏切ったのは!」
が、はっと言葉を呑んだ。やがて、紡ぐ。
「同じ……人間、なのに……」
――誰も口を閉ざしたまま、返さなかったのだ。
「愚かで」
「うん」
「哀れで」
「うん」
「身勝手で……」
カービィはひと言ひと言相槌を打って返し、視線を上げる。
「……でも、違うよ」
格好付けたがりのかっこ悪いリーダーだけど。
「僕たちが信じたいのは。ラディス・フォンって彼自身だから」
マルスは酷く顔を顰めていたが、遂に言い返さなかった。ばさっとマントを靡かせ、背中を向ける。そして歩きだすマルスに、最後カービィは口を開いた。
「次、あいつに手を出したら。分かるよね」