第五章
その日の夜のことだった。
「ふぁ……」
ここはマルスとロイの部屋。ベッドに腰掛けて読書をしていたマルスが小さく欠伸を洩らしたのを見ると、ロイは読んでいた漫画本を閉じて時計を見遣った。
「……そろそろ寝るか」
「ロイ」
部屋の明かりを消そうと立ち上がれば、やはり声をかけられた。
「今日。頼んだよ」
「……分かった」
やっぱそうなるよなぁ……ロイは苦笑いにも似た笑みを浮かべると、マルスが布団の中に入ったのを確認して部屋の明かりを消した。
「おやすみ、マルス……」
静かに扉を閉めて退室。
マルスは、まだ起きていた。先程の欠伸などなかったかのように、その眼は寝ぼけた様子もなく。ぎゅ、と布団を握り締めて。まるで感情を閉じ込めるように。
「……っ」
一瞬、眉を寄せて。瞼は間もなく閉ざされた。……
ロイは部屋を出てからも、すぐにはその場を動けずにいた。音を立てないよう扉に背中を預けて、小さく息を吐き出す。――いつまで持つだろうか。
彼も、そして自分も。
思っていた以上にラディスってあの男を支持する人間は多い。それだけに自分がここに潜り込めば全て暴かれる可能性もあった。それでも、俺がついてきたのは。
だん、と隣の壁を後ろ手で殴った。
……この期に及んで助けを乞うのか、俺は。
そうじゃないだろ。俺がここにやって来た理由はただひとつ――マルスの剣となり盾となること。奴が望むのなら、どんなに卑劣な手だって使ってやるさ。
例え、そこに人々の嘆きが積み上がろうとも。
俺は変わらず最愛の友として、お前を正しいと称え、傍に在り続ける――