第五章
うーわ、性格悪っ。
ま、斯く言う自分もそんな時期があったわけだけど。それにしても“わんちゃん”だなんて、随分とこっちの印象悪いんだな。これが一国の王子様なんてね……
「残念ながら首輪は繋がれてないもんで」
カービィはくすっと笑ってみせる。
「あんまり生意気言うと噛み付いちゃうかもよ。“王子様”?」
わざと強調させて、からかう。
マルスは顔を顰めた。と、次の瞬間には腰に据えた鞘に指を辿らせて柄を握り、剣を引き抜く。流れるように軽く打ち払われたそれは、銀色の光沢を放った。
「……質問に答えてもらおう」
おもむろに持ち上げられたその切っ先はカービィに向けられて。
「君たちのリーダーは何処にいるのかな」
ラディスに? カービィはいよいよ表情を険しくさせた。
「何も難しい話をしてるわけじゃない。彼と交渉がしたいだけさ」
「穏やかじゃないね。剣を向けて話すことじゃあないでしょ」
その時、赤い髪の男が門を抜けて庭に入ってきた。小さく溜め息を洩らしたかのように見えたが、カービィに剣の切っ先を向けるマルスを見つけると目を開いて。
「それとも。近頃の王子様は躾がなってないのかな?」
「……うるさい」
男が口を開くよりも先に、マルスは駆け出す。
「僕を怒らせるなッ、政府の犬風情が!」