第五章
「やーい! 追いつけるもんなら追いついて、」
必死に追いかけるリムを振り返ってからかっているのがいけなかったのだ。
次の瞬間、ドンキーは誰かにぶつかって。ぐら、とよろめいたが刹那腕を掴まれて、転倒だけは何とか免れる。ドンキーはきょとんとした様子で顔を上げて。
「……、」
繊細で艶のある青の髪と、蒼い海を連想させるコバルトブルーの瞳。
「大丈夫?」
あ、と声を洩らしたのも束の間、その少年はその場に跪き身を案じてくれて。
「お……おおきに」
そう言うと微笑を浮かべて少年はドンキーの頭の上にぽんと手を置いた。
「へえー」
カービィの間延びした声を聞いて、少年は優しかったその目の色を変えると立ち上がった。構えはしないが、ぴりぴりとしたムードが漂う。
「随分と洒落た服を着ちゃってさ。いいとこの坊っちゃんが何の用かな?」
もちろん、悪気はないのだ。ただ、素姓のしれないこの少年の心中をそれとなく探っているだけ。……少年は暫し口を閉ざしていたが、不意ににやりと笑って。
「躾がなってないなぁ」
カービィは一瞬だが目を丸くした。
「見て分からない? 僕はアリティア国の王子、マルスだよ?」
その少年、マルスはあくまで愛らしく、かくんと首を傾げるのだ。
「そこにおすわりして忠誠を誓うのが礼儀なんじゃないかな。――わんちゃん」