第五章



◆第五章『真偽の剣』



「……へえ」

個室とは到底思えない広々とした空間に、天蓋カーテン付きベッドが目を引く。

天井には煌びやかなシャンデリア。家具はどれも品が良く、如何にもといった花瓶や絵画がちらほら……その部屋の主はソファーの上で悠々と足を組んだ。

「すげーじゃん。要するに追っ払ったってことだろ?」

その隣で感心したように言うのは赤い髪の男。

「……まあ、遠からず」

向かいのソファーに座ってカップのコーヒーに口を付け、ひと息ついたのは青い髪の男だった。鉢巻きを額に巻いているのが印象的で。

「実際は相手の魔王が行方を眩ませただけらしいんだ」
「でも、戦ったんだろ? 魔王もその実力にびびったってことじゃん」
「肝心の部隊さんがそこまでは話してなくてな。……そうとも解釈できる」

艶のある青の髪につんとした瞳の色はコバルトブルー。白磁の肌は如何にも外の世界を知らないといった様子だが、そうではない。部屋の主である少年は不意に足を下ろすと、立ち上がった。それまで話していた二人は釣られて見上げる。

「どうしたんだよ。マルス」


少年の正体は――アリティア王国の王子、マルス。


「ねえ。その部隊って何処にあるの?」
「この世界の遥か上空に位置する天空大都市レイアーゼ。……そこにあるが」
「ふぅん。じゃあその部隊、差し詰め“政府の犬”ってところかな」

赤い髪の男は小さく目を開いた。が、逸らして。青い髪の男は呟く。

「またか……」

マルスは窓際へ移動すると、両開きの窓を押し開いた。風が、入り込む。

「……だって、面白いじゃないか」

僕は知っている。

「偽物の――化けの皮が剥がれる瞬間って」

この世界には嘘が多すぎる。
 
 
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