第四章-前編-
ドンキーは声を震わせる。
「なんで……そんなこと……」
リンクは自らの左手に触れると、嵌めていた茶色のグローブをおもむろに外した。
「――分かりますか?」
ゆっくりと差し出したその手の甲には、三角形を三つ並べたような痣が浮かんでいる。リンクはくすっと笑みを溢して。
「ただの七つの年の子が、この血塗られた紋章を背負わされ、戦場に放り出される」
ある日、突然。
それは音も立てずにやってくる。
「それまで、他の子供たちと何ら変わりのない暮らしをしていたのに。……何ひとつ心得ていない子供を、勇者だと称えて」
右手には盾を。左手には剣を。
――神に祝福されし勇者よ。その剣を空高く掲げ、ハイラルの大地に光あれ。
「人々は何を勘違いしているのでしょうか。それまでただの人間だった子供に希望を抱き、大地に光をもたらせと願って」
リンクは目を細める。
「そうして戦場に突き放した挙げ句、その結果の生も死も“運命”だと語るだけで」
――奪われてしまった。
それまでの日常も、生まれた意味も。