エピローグ
閉じていた瞼をそっと開く。
「なに話したんだ?」
訊ねるロイをマルスは一瞥して。
「大したことじゃないよ」
瞼を伏せる。
「……本当は簡単なことだったんだ」
彼がいなくなったあの日。
虚無。罪悪。
負の感情に苛まれて。
踏み出すのが怖かったんじゃない。
……僕たちは。
あの場所を離れるのが――
「違う」
はっと振り返った。
「簡単なことじゃない」
その人は墓石を見つめていた。
「色んなことがあったよ。……それでもあいつがいた日々を掻き消せなかった。忘れられなかった」
走馬灯のように脳裏を巡る過去の日々。
「多分これから先も変わらない。ずっと大切にしてきたことだから」
瞼を閉じて閉じ込める。
「……だから」
花弁を連れた一陣の風が吹くのと同時。
「だから俺たちはこの想いを胸に留めて前に進もう」
その人は振り返る。
「引きずるんじゃなくて、今度こそ」
例えば。手を差し伸べる人間がいて。
その手を取る人間がいて。
「……ああ」
君が教えてくれた。
たくさんの日々の中で。
また。君の言葉が助けになる。
「僕たちも行こう」