エピローグ



それは請け売りか。

報いか、或いは慰みか。


湧いて溢れ出しそうになる言葉を。

言いかけて、噤む。


「もう行くね」

そっと離れて解放する。

「ルーティ」

立ち去ろうとする少年の背を振り返り、マスターが呼びかけた。

「――父さんなら」

訊ねるより早く。

「こうしたんだと思う」


例え、信じたくなくても。

どんなに取り戻したかったとしても。


……あの人は。


「僕は、僕だから」

振り返らないまま言葉を紡ぐ。

「ルーティ・フォンだから」


静かな風が吹いていた。

少年が森の中へ消えてもずっと。


それは優しく。

母が子を愛でるように。


ずっと。……ずっと。


「マスター」

気付けば幼子が見つめていた。

「クレイジー」


風が吹いている。


「……どんな世界を造ろうか」

クレイジーは目を丸くした。

「突然だね?」
「そうでもないさ」

ふっと笑みをこぼす。

「……新しい物語を迎えるのならそれに相応しい舞台を用意しなくてはな」


そうでなくては退屈だろう。

なあ。……ラディス。


「下剋上とか?」
「おかしがたべたい」
「……さあ」

マスターは口元に笑み。

「それは見てみてのお楽しみだ」
 
 
27/45ページ
スキ