エピローグ
わからない?
声は確かに目の前にいるその人のものなのに何故か口からではなく頭の中に語りかけるように聞こえた。
「……うん」
何だろう。
握られた手を通して何か温かいものが流れ込んでくるのを感じる……
たいせつなこと。
きみだからわかってほしい。
「僕に……」
わかるよ。ルーティなら。
……その声を境に自分の意識が遠ざかるのを感じた。奪われるといった形ではなく深い眠りに誘い込まれるようなそんな不思議な感覚――
「ラディス」
繰り返して呼びかける。
「ラディス」
その人は確かにそこにいるのに。
触れているのに。
「ラディス」
……心の何処かで淡い期待を抱いていた。あいつが口癖のように繰り返していた言葉に倣って此処で待っていればいつか本当に――あの声で、頼りなく笑って。
戻ってくるんじゃないかって。
流れ込む。ルーティは確かにそこに立っていたのに、その場所に自分という存在を感じられなかった。
……何だろう。これは。
「きおく」
答えたその主は自分とは異なり形を持って隣に立っていた。
「きみがしらない」
タブーは無表情で言葉を紡ぐ。
「くうはくのときのきおく」