エピローグ



「遅っ」

レイアーゼ繁華街にある茶屋の前。

「お、遅くなってごめんね」

怒鳴り散らす勢いだったスピカが言葉を噤んだのもまあ無理もない話。苦笑を浮かべるルーティの後ろからひょいと顔を覗かせたのは。

「にぃにっ!」


まさか自分も街中で彼女と遭遇するものだとは思わなかった。どうやら短期の任務の報酬金の受け取りついでに買い物をして後は帰るだけといったところだったらしく──同行していたリムが気を利かせて荷物を預かってくれたのでピチカだけが付いてきたというわけである。

「お……お前、狡いぞ! そういうの!」

それだってスピカにしてみればあまりに都合が良すぎて遅れてきたことに対する怒りを鎮める為に呼び出したように見えるよなぁ……

「おにぃから聞いたよ!」

ピチカはむぅっと唇を尖らせる。

「二人だけでゼンマイを食べようなんてっ!」
「善哉だよ、ピチカ」
「ど、どっちでもいーの!」

いやいやロボットじゃないんだから。

「僕も食べるっ!」

両方の拳を握って前のめり。ご覧の通りです、とばかりにルーティが呆れ気味に視線を遣れば腕組みをしながら見ていたスピカは諦めたかのように大きく溜め息を吐き出した。

「……高いんだからな」
「えっ? 割り勘じゃないの?」

ピチカはそのままの姿勢できょとんと。

「あ、当たり前だろ──」
「わぁーいっ! にぃに大好きっ!」

誘った側の手前恐らくは見栄を張りたかったのだろう。そうとも知らずに飛び付くピチカに自他共に認める最強のシスコンであるスピカが絆されないはずもなく「お、おう……」なんて一聞してぶっきらぼうに返しながらも頬をほんのり赤らめてニヤケ顔。

「予約とか取らなくてよかったの?」

ルーティが訊ねると。

「ああ。席取らせてるからな」


引き戸を開ければ途端に冷房の風が吹き抜けて汗や熱を掻っ攫う。店内は広くない割に思いの外賑わっていて待っている間席を取ってくれていたその人には頭が上がらないなと思いつつ。

「ほらそこ」

スピカが指差した先。

「ダークウルフ」

四人掛けのテーブル席を確かに取ってくれていた様子のその人が気付いて手を挙げるのを目にルーティは歩み寄りながら怪訝そうに。

「焦げた?」
「いや、……まあ……」


何があったんだろう……


「わぁー!」

この暑い中を歩いてきただけの価値はある。

直前まで氷水に浸されたお椀に盛られた極上のスイーツ。ひんやり冷たく仕上がった汁粉には定番の小豆や白玉のみに留まらずバニラアイスや夏にぴったりのキウイやさくらんぼといったフルーツまでそれこそ贅沢に。近頃流行りの何とか映えを意識しているのやら添えられたホイップクリームはチョコチップやソースで犬だの猫だの動物を模しているようであちらこちらからシャッターの音や可愛いの声。

「お値段以上だろ?」
「インテリア小売店じゃないんだから」
「うっせぇ」
「よーし撮った!」

ピチカは満足げに端末を伏せる。

「食べていっ!?」
「冷めない内にどうぞ」
「冷やしてあんだよ、馬鹿っ」
「いっただっきまーす!」
 
 
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