エピローグ



ルーティが釣られてそちらに目を向けると確かにそれはあった。晴天をバックに高く高く聳え立つ白い巨塔。──レイアーゼ中央司令塔。

そういえばこの人はどういった用件で司令塔を目指していたのだろう……失礼ながら関係者とは思えない風貌だし(人のことは言えないが)ただ単純に依頼があって訪れようとしていたのなら正体を明かして話を聞くべきだったような。

「さて」

いよいよ敷地内に足を踏み入れたといったタイミングで少年がまるで一区切りのように小さく呟くと同時にルーティは思わず足を止めた。数歩先を歩いた後で立ち止まった少年はゆっくりと振り返る。

「案内してくれてありがとう」

長いようで短い──そんな時間だったかのように思う。例えば名前だとか用件だとか聞きたいことは山ほどあったがこの今になって急ぎ必死になって問い質す気にはなれなかった。

「僕の方こそ」

ルーティは首を横に振って笑いかける。

「楽しい時間をありがとう」


さあっと風が吹き抜ける。

きっと。この夏で一番涼しい風だった。


「……こちらこそ」

少年がぽつりと呟いた言葉をルーティは運悪く聞き取れずに。

「何?」
「いいや」

聞き返したけれど、ご覧の返答で。

「それでは」

少年は柔らかく微笑する。

「また会える日を楽しみにしているよ」


ルーティ・フォン。


「……よし」

少年の背中を見送ったあとでルーティは司令塔前の広場にある時計塔を見る。早めに済ませるつもりが思いの外時間が掛かってしまった。

急いで戻らないと今ごろ暇潰しに付き合わされているであろうダークウルフがこの暑さで干からびてしまうな──なんてくだらないことを考えながら駆け出そうとして、はたと気付く。

「あれ」


僕、……名前なんか言ったっけ……?
 
 
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