エピローグ



まさか両親のいない孤児みなしご──なんてはずもないだろうということでルーティは男の子を連れて、例えばインフォメーションカウンターのような迷子を預けられる場所を探していた。どうにも先程から口数が少なく大人しい子のようなので両親はいないというように答えていたが実際のところはあの人波に攫われたおかげで逸れたのでこの場にはいないと答えたかったのだろう(頓知みたいな推測ではあるが)。

今このタイミングであの場を離れるのは少年に悪い気もするが正義感のある人のようだったし後から合流して理由を話せばきっと分かってくれるはず──ルーティは迷いを振り切るように、頭をぶんぶんと横に振って顔を上げる。

しかしまあ自分ときたらいい加減トラブルメイカーもいいところである。自己解決できる程度のハプニングとはいえそれだって周りを巻き込むのは如何なものなのか。これが遺伝だというのならいくら誇りある父親でもほんの少し恨み兼ねないレベルだ。

「君は」

思わず苦笑いを浮かべていれば。

「お母さんは」

不意に口を開いた男の子はただの質問返しのつもりだったのだろう。

「僕、出身はここじゃないんだ」

手を引きながら答える。

「メヌエルにいるよ」
「そう」

男の子は然程興味なさげに返して、続けざま。

「お父さんは」


話の流れで聞かれるとは思っていた。


「んー」

だからといって気まずくもない。

「父さんはもういないんだ」

ルーティが答えると。

「天国?」

これまた直球な。

「そうかも」
「じゃ、近いね」

天空大都市だからこそのブラックジョークのようなものだろうか……実際に聞いたのは初めてだが。

「会いたい?」

ルーティは相変わらず前を向いたまま。

「会えたらね」

男の子は密かに目を細める。

「うん」

ざわざわと行き交う人々。

あちらこちらで声を張り上げる店員。

「……会えるよ」

小さく呟かれた声は。

案の定、ルーティの耳に届くはずもなく。……
 
 
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