エピローグ
ルーティが救急に電話をしている間に少年は何の気なしに上を見た。どういった絡繰、或いは仕掛けなのか逆さ吊りになりながら──けれどこの場は望んでそうしたとでも言うように何食わぬ顔で。逆光となりまさしく影そのものと化している先程の青年と思しきそれの海棠色の双眸と目と目を交わして。
「……、」
静かに目を細める。
「すぐに来てくれるみたい」
ルーティが通話を終えて振り返る頃には少年も向き直って「そっか」と言葉を返していた。
「それにしてもどうしたんだろうね」
うぅん、と唸って腕を組む。
「熱中症じゃないのか?」
「あ……うん。そうなんだけど……」
青年を路地裏に連れ込もうとしていたあの場面では弱い者虐めの展開にまさしく心が浮き足立っているような様子だったけど。それともこの暑さで蓄積されていたものが天罰とばかりに一気に降りかかったということなのだろうか。
「うう……」
意識を取り戻したのか男の一人が呻いた。
「あ」
救急車のサイレンの音が近くまで。
「僕呼んでくるよ!」
このまま路地裏に篭っていたのでは見つかるものも見つからない。ルーティは断りを入れて飛び出す。
「ここで待ってて!」
思わぬハプニングだった。
いや、この季節この時期においてはもはや日常茶飯事といったところなのだろう。その証拠に救急隊員の人達は異様に手際がよかったし重症という程でもなかったようで後のことは全て任せてしまった。
「僕たちも気を付けないとね」
天空大都市ともなれば太陽に一番近い国。その上ビルが立ち並んでいて温暖化の問題もあって──兎角条件が揃い過ぎているのだ。
気をつけるに越したことはない。注意を促すように言ってルーティがぱっと振り返ると。
「ん?」
空になったペットボトルをゴミ箱に捨てるそのついでに次の飲み物を購入しようとする少年の姿。目と目が合えば申し訳なさそうに。
「すまない……あれで足りなかったというわけではないんだが」
そんなこと気にしていないのに律儀な人だ。
「大丈夫だよ!」
ルーティは笑ってその隣に駆け付ける。
「僕も飲み終わっちゃったし何か買おうかな」
ガコン、と飲み物の落ちてくる音。
「水分補給は大事だからね!」