エピローグ
見た目通り丈夫だったようで男は背中の痛みに顔を顰めながらふらりと立ち上がると反撃するべく拳を握りつつ踏み出した。けれど周りにしてみれば一度は体格差のある小さな子どもに投げられた敗北者。くすくすと笑う声がプライドに障ったのだろう大きな舌打ちをすると人混みを手荒く押し除けながら去っていってしまった。
「あぁあ……」
手を出すつもりはなかったのに……男が去ってしまえばこれ以上は盛り上がらないだろうといったところで、周りを囲んでいた群衆基野次馬は散り散りになっていった。変な風に通報されやしないだろうかと重く肩を落としていれば。
「わっ」
ぽんと肩を叩かれて。
「え、あっ」
振り返れば少年と老婦が並んでいる。
「ありがとうねぇ、坊や」
「さっきの男はご婦人にぶつかっておいて謝りもしないで立ち去ろうとしたんだ」
成る程。それで見兼ねた少年が注意したところ、逆上されてしまったというわけか。
「それがまさかあんなことになるなんて……」
老婦は眉尻を下げて呟く。
「怪我はしてない?」
「だ、大丈夫です」
「飴ちゃんあげるわね」
……なんか貰ってしまった。
「あらいけない。お茶会に遅刻しちゃう」
老婦は用事を思い出したのか慌てた様子で。
「色々とごめんなさいね」
「いえ。お気をつけて」
「失礼するわね」
朗らかに笑いながら。
「知らない人についていっちゃ駄目よぉ」