最終章
目をぱちくりとさせるばかりのルーティに。
「昔の僕は」
マルスはゆっくりと手を伸ばすと。
「意地っ張りで、強がりで」
頭を触れて優しく撫でながら。
「……厚意を跳ね除けてばかりだったから」
重なる。
「意外だね」
幸か不幸か意図を掴めていない様子のルーティが返すとまるで我に返ったかのようにその手を引っ込めてマルスは苦笑いした。
「あはは」
普段の彼といえば基本的には常識人で好青年で教育の行き通った紳士な振る舞いが容姿も合わさり惹きつけていて──兎にも角にも非の打ち所がない人だと思っていたけれど。そんな人にもやんちゃな過去があったのだと思うと好感というか勝手ながら親近感が生まれてしまう。
「酔っちゃったかな」
マルスは首元を手で扇ぎながら他所を向く。
「あんまり飲み過ぎたら──」
「ルーティ!」
引っ張り凧というやつである。
「マイク空いたよ!」
「え?……えっ?」
まだ歌うとは言っていないのに多少なりともお酒が入っているのであろうピットに早く早くと急かされるがまま背中を押されて。遠ざかっていくルーティを横目に密かに安堵したように小さく息を漏らせば視線を感じてマルスは振り返る。
「随分と嘘が上手くなったんだな」
ぎくり。
「酔ってないだろう」
グラス片手に核心を突くパートナーに。
「そういうことにしておいてくれるかい」
アイクはその横顔を見つめてふっと笑みを零す。
「……そうしよう」