最終章
人より幼く窺えるその風貌からはまったく想像も付かないことだろうが彼は自分が生まれるより前からこの世界をその目に留めてきたのだとか……それこそ遡れば父が生まれる前すらまだまだ可愛い話だというのだから驚くことさえ忘れて呆気に取られてしまう。人が見た目によらないのは今に始まった話でもないがそれにしたって彼の場合は度を越しているような気さえ──
「私の分析によると」
ロボットはゆっくりと口を開く。
「彼の発言には──どうやら物質的な意味合いは含まれていないようデス」
「し、身長が伸びてないってこと?」
ざっくりと矢印のような鋭利な物が突き刺さる感覚を覚えるルーティだったがロボットは首を横に振って続ける。
「彼は精神的な成長を喜んでいるデス」
それを聞いてルーティは目を丸くした。
そして。
何となく想像する。
他の誰よりも長く過ごした人生の中で自分や父の存在は白黒だった彼の世界を確かに彩ったのだということ。
微々たる成長も些細な変化も──その一つ一つが例えば星の瞬きにも満たないような時間の流れの中の出来事だとしても。ただの喜びも哀しみも一欠片だって取り零すのが惜しいほどにその全てが目を離せない愛しい瞬間であったということ。
尊い時間だったということ──
「……ありがとう」
ルーティが膝の上に手を置いてほんの少し屈みながら笑いかけるとゲムヲは照れたのか否かさっとロボットの後ろに隠れてしまった。
「あーいたいた!」
その声にルーティはきょとんとして振り返る。
「主役がほっつき歩いちゃ駄目でしょー」
「カービィ、……ゔえっ」
酒の匂いがする!
「ほぉらこっちこっち!」
「わ、ちょ……ま、またあとでっ!」
既に酒類のお世話になっている様子のカービィに問答無用で手を引かれていくその人をロボットがこれまた慈悲もなくいつもの無表情で手を振り見送っていればようやくゲムヲが顔を出した。
「どうしたのデス」
「……そっくり」
怪訝そうに訊くロボットにゲムヲは服の裾を掴みながらぽつりと。顔を綻ばせながら呟く。
「ラディスにそっくり」