最終章



食事を終えれば真っ直ぐ別荘に帰るものだとばかり思っていた。ところが会計を済ませて店を出たウルフが向かったのは別荘とは全く反対の方向である。遅れて気付いたルーティは慌ててその背に追い付くと唇を尖らせながら。

「やっぱり何か隠して」
「テメェに見せたいモンがある」

いつもの顔に戻ってきょとんと見つめ直す。

「聞きたいことも」

そう言われてしまったのでは弱い。途端に何を隠しているんだと詰め寄る気も失せて其方ばかりに気を取られてしまう。何よりウルフの方からそうして話を持ち出すこと自体珍しいのだ。

特に会話もなく歩いていると初日から皆の体力を掻っ攫ったビーチに辿り着いた。この天気ということもあって砂浜では男女問わず肌の群れがやれビーチボールだスイカ割りだと思い思いに夏を満喫している。ウルフは当然のように其方には目もくれず階段を伝って砂浜に降りると迷わず人気の少ない方へと足を進めて。

「何処に行くの?」

なんて質問を投げかけたところで返ってくる筈もない。暫く歩いていった先は入り江のようになっており中年の釣り人がちらほらと窺えるだけで海水浴を楽しもうという身なりの客は見当たらなくなっていた。ウルフはそこでようやく足を止めると怪訝そうに見つめるルーティには目もくれないままゆっくりと口を開く。

「……ルーティ」
「うん?」
「この海がどう見える?」

きょとんとした。

「どうって……別に普通に綺麗だよ」

比較的純度が高く澄んでいて。浅い場所では色とりどりの魚が泳いでいるのだって窺える。一目に分かるのにそんな質問は野暮というものでは──

「もっと深い場所には」

灰色の髪が潮風に揺らぐ。

「人の死骸だって沈んでるのにか?」
 
 
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