第四章
「……だけど」
話の続きがあったことに驚いた。
マルスはするするとスポンジを適当に滑らせていたが、ぴたりと手を止めて。
「君は水を飲んでしまった。だから急遽、人工呼吸をすることになったんだ」
気付くと、心臓の高鳴りの原因はもっと違うものになっていた。ルーティの脳裏を掠めるのは、意識を完全に失う直前の映像。
……もしかして。
「その時、人工呼吸をしたのが」
こっそりと告げられた名が、一致した。
「起きたみてえだな」
タイミングが良くも悪くも、現れたのはウルフである。ルーティの隣にある風呂椅子に腰掛けるなり、ふと、首を傾げて。
「……何を赤くなってんだ」
ひょいと顔を出したマルスが舌をぺろり。
ウルフが状況を把握した時には既に遅く、ルーティはシャワーのノズルを手に取ると熱湯に設定。ウルフに向けて。
「ウルフの……ばかーっ!」
「おまっ、やめ、あっつ! いってえ!」
一応、ファーストキスなのに。
でもね。ウルフでよかったってちょっとだけだけど思ったんだ。皆には、内緒だよ?