エピローグ
「にぃに!」
ピチカの呼び声に、ルーティに背を向けて歩き出していたスピカは足を止めて。
「にぃには、僕のお兄ちゃんだから!」
ピチカは大きな声で。
「ずっと、大好きだよ!」
その時、スピカがどんな顔をしたのかは分からない。ただ、彼にしては珍しくただ片手を軽く挙げただけで、そのまま歩き出した。ルーティは彼の背中を見送って。
「……大好きなお兄ちゃん、か」
エックス邸の門を抜けた先にある森の中で、スピカはぽつりと呟いた。
「宜しかったのですか?」
森が問いかけているのではない。声の正体は木の後ろから現れた。不安げにスピカを見つめるのは、ダークウルフである。
「今なら、引き返せます」
「何が言いたい」
「戻ったら」
ダークウルフの表情に影が差す。
「もう二度と、返しませんよ」