第三章



「……ネス」

心細くなって、ぽつりと名を呼んでみる。

誰よりも信頼していた彼は、今ここにいない。逃がす為に自分を犠牲にしてくれたのだと思うと、リュカの胸は酷く痛んだ。

「ネス……」

もう一度だけ、名前を呼んでみる。

無線からも本人からの返事はなく、リュカは寂しくて遂に立ち止まり、その場に屈み込んでしまった。釣られて泣きそうになるが、下唇を咬んでぐっと堪え。

リュカは行く宛もなく歩いていた。

ここが何処かは知らない。リュカは周りもよく見ずに、ただ逃げてきたのだから。


「リュカ」


名を呼ばれたので、振り返ってみる。

リュカは目を見開いた。――そこで微笑を浮かべ、立って此方を見つめていたのは、なんと先程無線越しに悲鳴を上げていたはずの、ディディーだったのである。
 
 
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