走れ!真夏のヒーロー!
……何だろう。
「どうしたんだ?」
不思議そうに此方を見つめるシュルクをルフレが猫と見紛うような威嚇で追い払ったところで用件を訊ねる。
「え、あっ」
だというのに何を今更躊躇うのかルフレは口をもごもご。……そういえば海から上がったばかりで髪は濡れているし肌寒いのだろうか両手で自分を抱き締めるようにしながら体を小さくしている。
また彼女は変に強がって誰にも言い出せなかったのだろうか。つんとしてしまう癖もここまでくるといい加減やめておけと言いたくもなるが個性だし。
それでもせめて、兄の前くらいは。
「言わなきゃ分からないよ」
マークが言うとルフレは肩を竦めた。
「ぅ、分かったわよ」
そろりと弱々しく視線を上げる。全く、こうして見る分には小動物か何かのようで周りの言うような冷たく牙剥く猫には見えないんだけどなぁ……
「盗られたの」
……えっ?
「海から上がろうとした時、何か変だなってそれで気付いて……何とかばれずにここまでは来れたけど」
「ち、ちょっと待ってくれ」
マークは頭を抱えた。
「盗られたのって」
それを言わせるのと言いたげにルフレが弾かれたように此方を見た。
いやいや。いくら何でも。
……ちょっと待てええぇええええ!?