走れ!真夏のヒーロー!
……それにしても。
こうして、あくまでも一般人らしく遊んでいる分にはそんな物騒な話が本当にあるのだろうかと疑ってしまうほどなのだが。ビーチパラソルの下で少し体を休ませていたマークは不意にビーチボールが転がってくるとそれを拾い上げて。
「すみませーん」
駆け寄ってきた女性を目に立ち上がる。微笑を浮かべて手渡したその際の視線が熱く感じられたのは多分、夏のせいではないだろう。
「ありがとうございますっ!」
そう言って女性は走ってグループの中に戻るや否やきゃあきゃあと。此方を振り向いては何やら話しているようだが追及するつもりはもちろんないわけで。
「……今の人」
振り返る。
「マークのこと見てたよ」
海の家から戻ってきたシュルクの手にはスポーツ飲料水の入ったペットボトルが握られていた。
「飲む?」
「少し貰うよ」
差し出されたそれを受け取ろうとして。
「兄さん」
そっと声をかけてきたのは。
「……ルフレ?」
どうしてそんなところに。呼んだ彼女は何故か木の陰に隠れるようにして此方を見つめていたのだ。
「本当だ」
シュルクが気付くとルフレは小さく肩を跳ねさせて縮こまった。そして手招き。
「どうしたんだい」
「……ちょっと」
「ルフレ?」
「兄さんだけっ!」